悲劇の発動機「誉」―天才設計者中川良一の苦闘
こんばんは。
最近はエンジン関連の仕事をしているポンコツサラリーマンの土星です。
仕事関連でエンジンの歴史や技術史をよく読んでいるのですが、
終戦記念日の8月ということもあり、本書を紹介させて頂きます。
こんな方におすすめ
・技術史、工学に興味がある方
・歴史、戦史に興味がある方
・航空機に興味がある方
本書の概要
概要
太平洋戦争の直前、天才的設計者中川良一は
世界トップクラスのエンジンの試作に成功。
海軍はどよめき立ち、生産に励むがトラブル続出。
その原因を徹底追及した力作。
日米開戦の半年前、中島飛行機の若き設計者・中川良一は、
野心的な高性能の次世代エンジン「誉」を完成させる。
小型軽量ながら当時の世界最高水準を実現したまさに奇跡のエンジンであり、
彩雲、疾風、紫電改などの新鋭機に次々と搭載されていく。
だが想定されたハイオクタン燃料が入手できず、
原材料の質低下、熟練工の軍隊召集、陸海軍の不手際などによりトラブルが続き、
その真価を発揮できることなく敗戦を迎えた。
本書は「誉」の悲劇を克明に追い、
現代に連なる日本の技術開発や組織運営が抱える矛盾と
問題点を浮き彫りにする。
著者について
ノンフィクション作家。
1946年生まれ。石川島播磨重工(IHI)の航空宇宙事業本部技術開発事業部で
ジェットエンジンの設計に二十年従事。
1988年、同社を退社し、日本の近現代の産業史の執筆に取り組む。
主な著書に『弾丸列車』(実業之日本社)『マン・マシンの昭和伝説』上・下(講談社文庫)
『戦艦大和誕生』(講談社+α文庫)、『世界制覇』上・下(講談社刊)、
『日本のピアノ100年』(岩野裕一氏との共著、草思社刊〕、
『日本はなぜ旅客機をつくれないのか』(草思社刊)、『技術者たちの敗戦』(単行本・文庫とも草思社刊)、
『満州航空の全貌』(草思社刊)などがある。
目次
「BOOK」データベースより
プロローグ 博物館の鉄の塊
第1章 奇跡のエンジン「誉」
第2章 中島知久平の旗揚げ
第3章 試作から量産へ
第4章 「誉」エンジンの検証
第5章 欧米メーカーの開発体制
第6章 シリンダーとピストン、冷却の盲点
第7章 航空技術廠内の「誉」批判
第8章 悲劇を生んだ根本原因
エピローグ 「欧米に追いつけ」の果てにあるもの
本書の感想
本書は時代や軍に翻弄されたモノづくりや現場関係者たちの
葛藤や苦悩が描かれているドキュメンタリーです。
エンジニアであった著者の視点から分析し、
当時の中島飛行機の企業風土や時代背景などを踏まえ、
「誉」発動機の企画以前に遡り、
中島飛行機がなぜこのような技術的冒険に出たのか?
なぜ海軍はごり押しするほど入れ込んだのか?などの開発の経緯や、
現場(製造現場や使用現場)でどんな問題が起きていたのか?
その原因は何だったのか?といったことを
取材と資料から解明しており、非常に興味深いです。
「誉」発動機の開発・運用の経過を中心に、
中島飛行機の社歴や社風、競合の三菱重工や欧米メーカーとの
発動機開発の対比、比較検討など幅広い内容で、
零戦の設計者でもある堀越二郎氏などの当時の関係者の著作や
証言にもあたり、とても考証的なレビューになっており、
実用品のエンジニアリングとはどうあるべきかについても、
専門外の方も理解出来るように解説されています。
また本書は航空発動機「誉」を通して、
日本人や日本型組織の欠点が露わにされており、
そういった観点からすると、
ロングセラーの「失敗の本質」に通ずるものがあります。
著者はこれが今日にも続いている問題だとして、
文庫版あとがきでは東日本大震災の時の原発事故を例に挙げ、
その類似性を論じています。
航空エンジンだけでなく、航空機の開発史や歴史の読み物としても面白いです。
技術史だけでなく、歴史や組織論などに興味がある方も是非読んで見て下さい。
総合評価
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